2020年の最後を飾るイスムの新作は、円熟期の運慶が制作監修した二人の肖像彫刻。 二像の視線や造型の違いが生み出す、厳粛な雰囲気をお楽しみください。
「心の外には何もない」
弥勒菩薩より教えを
伝授された法相宗の始祖
5世紀頃の北インド ガンダーラ国で活躍した兄弟の学僧、無著と世親。
兄の無著は兜率天で最後の修行に励む弥勒菩薩から教えを伝授されたとされ、「ただ(唯)心(識)のみ」、つまり心の外に事物は存在しないという唯識を説きました。
弟の世親は兄の教化を受け唯識論の著述に尽力し、これが法相宗の基礎となりました。 西遊記で馴染み深い玄奘三蔵によってこの教義が中国へ持ち込まれ、それを入唐僧らが学び伝えたことが後の法相宗の礎となりました。
老と壮の対比がもたらす
緊張感
無著菩薩
兜率天で最後の修行を行う弥勒菩薩から教えを伝授され、法相宗教義の礎となる唯識を説きました。
その表情にはあらゆる衆生を救う大乗仏教の崇高な精神が現れ、真理を見据えるかのようなまなざし、引き締まった口元に意志の強さを感じさせます。老貌を表す高い頬骨と細い顎が特徴です。
皺や肉のたるみとともに、真理にたどり着いた僧の格の高さを感じさせるその表情を再現しました。
経典を入れた宝篋(ほうきょう)。
添える右手がその中身の重要さを示します。
両像とも彩色の剥落が激しいが、比較的よく残る無著像の袈裟の田相までしっかりと再現しました。
世親菩薩
もとは小乗仏教の大家でしたが兄の無著に教化され唯識の拡大に尽力した世親。
その表情は悟りを得た無著とは対照的で、いまだ真理を求め続けるひたむきさが感じられます。眉根を寄せた鋭いまなざし、壮年を感じさせる角張った頭が特徴です。
肌の張りを感じさせる壮健な肉感。
無著とは交錯しない視線が空間の広がりを感じさせます。
無著よりもやや装飾的な袈裟の環。
わずかな差異が二人の個性と年齢の違いを彫り出しています。
宝珠を持っていたと思われる左手。一本ずつ角度を変えて曲がる右手指が豊かな表情を見せます。